こんにちは、獣医師の山中です。
動物病院では日々、鎮静や全身麻酔が行われます。
獣医師から
「検査や治療のために鎮静や全身麻酔が必要です。」
と言われた際、
少し抵抗感や不安感を覚える飼い主様もいらっしゃるかと思います。
そこで、麻酔とはどのようなものなのか少しずつご紹介できたらと思います。
全身麻酔と鎮静の違いについては以前の記事をご参照ください。
鎮静や全身麻酔は怖いもの?? | 札幌市豊平区のノア動物病院
ノア動物病院での犬と猫の診療において、
鎮静処置は患者さんの安全と快適さを確保するために重要な役割を果たしています。
本記事では、鎮静の目的から使用薬剤の特徴・副作用まで、
飼い主の皆様が理解しやすいように解説します。
目次
鎮静の目的
来院前の鎮静
検査・処置での鎮静
術前・術後の鎮静
治療としての鎮静
各種鎮静薬の紹介
よくある質問、注意点
まとめ
鎮静の目的
鎮静と全身麻酔はどちらも麻酔の一種です。
鎮静は、動物が不安や痛みを感じることなく、
検査や処置を受けられるようにするための手段です。
これにより、動物のストレスを軽減し、
安全かつ効果的に検査や治療を行うことが可能となります。
次の項からは、
目的に応じた鎮静薬の使い方や、使用薬剤の特徴・副作用の説明をしていきます。
来院前の鎮静
一部の動物は、病院への来院時に強い不安を感じることがあります。
このような場合、来院前にあらかじめご自宅で鎮静薬を投与することで、
動物のストレスを軽減し、診療をスムーズに進めることができます。
当院での使用が多い薬剤:トラゾドン、ガバペンチン など
検査・処置での鎮静
レントゲン・超音波検査・喉頭観察、簡単な処置(各種採材・チューブの設置・輸血採血)など、
動物が動かずにいる必要があったり軽い痛みを感じたりする検査では、鎮静が有効です。
鎮静薬を使用することで、動物の動きを抑制し、正確で安全な処置を実施できます。
当院での使用が多い薬剤:メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール、プロポフォール、アルファキサロン など
術前・術後の鎮静
手術前後の鎮静は、動物の不安を軽減し、回復を促進するために重要です。
術前に鎮静薬を投与することで、手術への不安を和らげ、
術後の痛みやストレスを軽減することができます。
当院での使用が多い薬剤:メデトミジン、ミダゾラム、ブトルファノール、ケタミン など
治療としての鎮静
問題行動のある動物へ使用することがあります。
鎮静薬で不安を軽減することで、
行動修正療法での学習の促進・飼い主様への依存心の改善を期待します。
また、認知機能不全症候群では夜間の不眠や夜泣きへの対処として使用されます。
また、発作を抑える目的で、座薬の形状で投与されることがあります。
当院での使用が多い薬剤:トラゾドン、ガバペンチン、ジアゼパム など
各種鎮静薬の紹介
当院で使用する主な鎮静薬の特徴や副作用をご紹介します。
▹メデトミジン
鎮静・鎮痛・筋弛緩作用を持ち、手術前の鎮静や痛みの管理に使用されます。用量によって鎮静・鎮痛の程度をコントロールします。副作用として、血管収縮作用による心拍数・心拍出量の減少、用量に応じた呼吸抑制、催吐作用、軽度な血糖値上昇(インスリン分泌抑制作用による)などが報告されています。そのため、状態が悪い・心疾患を持つ・老齢などの症例では使用を慎重に検討する必要があります。アチパメゾールという薬で拮抗(効果を打ち消すこと)ができます。

▹ミダゾラム
鎮静作用と抗けいれん作用があります。副作用として、呼吸抑制や血圧低下が考慮されますが、鎮静の際の単発使用では起こりずらいです。健康な動物では興奮する場合があります。注射での使用のほか、鼻用薬液噴霧器(ファインアトマイザー ネイザル)で鼻粘膜からも使用可能です。フルマゼニルという薬で拮抗(効果を打ち消すこと)ができます。

▹ブトルファノール
鎮痛・鎮静作用と鎮咳作用を持ち、軽度な痛みの管理に使用されます。一緒に使用することの多いメデトミジンの嘔吐作用を抑制します。呼吸困難でパニックになった子に単独で使用し落ち着かせたり、鎮咳目的の内服薬としてシロップに溶かして処方したりすることもあります。ナロキソンという薬で拮抗(効果を打ち消すこと)ができます。母乳に移行するため、授乳中の犬猫への投与は注意が必要です。

▹トラゾドン
抗不安作用と鎮静作用を持ち、長時間の鎮静が可能です。副作用として、循環器症状(不整脈、頻脈、失神、血圧低下)、消化器症状(消化管運動低下、便秘、下痢、嘔吐)や過度の鎮静が考慮されます。

▹ガバペンチン
鎮痛・鎮静作用と抗てんかん作用があり、鎮静薬としては来院前の鎮静・不安軽減に使用されます。血圧測定や心臓エコー検査には大きく影響しないとされますが、神経検査では結果に影響が出る可能性があるため注意が必要です。副作用として、急性腎障害、肝機能障害、横紋筋融解症、アレルギー・アナフィラキシーなどが報告されています。そのため、腎不全の猫ちゃんへの投与は低用量から検討する必要があり、アレルギー反応が起きた子への投与は禁忌となります。また、猫ちゃんで血圧が下がるときがあります。

▹ジアゼパム
不安や緊張を和らげる作用をもつ薬で、鎮静やけいれんの抑制を目的に使用されます。健康な動物に対して単独では深い鎮静は得られませんが、他の麻酔薬と併用することで処置を安全に行いやすくなります。比較的循環への影響が少ない一方、興奮が強まる動物がいたり、腎・肝機能障害のある動物では注意が必要です。

▹プロポフォール
短時間でしっかり眠らせることができる静脈麻酔薬です。作用の発現と覚醒が非常に速く、麻酔導入や検査・処置に幅広く安全に使用されます。一方で、投与速度や投与量に応じて、無呼吸・血圧低下といった副作用が出ることがあり、慎重な投与が重要です。大豆アレルギーを持つ動物には使用を控えることが多いです。

▹アルファキサロン
比較的新しい注射麻酔薬で、プロポフォールと同様、スムーズな導入と覚醒が特徴です。心臓や血圧への影響が比較的少なく、高齢動物や全身状態に不安がある場合にも選択されることがあります。まれに呼吸抑制や筋肉のぴくつきが見られることがあり、使用中は注意深い観察が必要です。

▹ケタミン
鎮静・鎮痛作用を持ちます。他の薬剤と併用することで、より効果を発揮します。日本国内では麻薬指定を受けている薬剤です。脳圧や眼圧上昇を生じるため、頭部外傷・脳腫瘍や眼球損傷・緑内症の動物では使用を避けます。これらの点を踏まえ、他の薬剤と組み合わせながら安全性に配慮して使用しています。

よくある質問、注意点
Q | 鎮静って安全なの??
A | 基本的には安全に実施されることがほとんどです。
しかしながら、動物の状態や処置時間によっては
呼吸状態・血圧・体温・酸素飽和度など、
全身麻酔と近いモニタリングをしながら実施しています。
状態の変化に備えて、鎮静解除や血管確保の準備も整えて臨みます。
Q | 絶食は必要なの??
A | 基本的には8時間程度の絶食をお願いしております。
嘔吐の副作用をもつ薬剤の使用にあたり、
誤嚥(気道内に異物が入ること)のリスクを防ぐためです。
しかしながら、万一ご飯を食べてしまったりやむを得ない状況であったりする場合は、
嘔吐の副作用の少ない薬剤や制吐剤を併用するなどして対応することもあります。
Q | 帰宅後の過ごし方は??
A | 飲水や食餌はゆっくり始めていただきます。
むせてしまう場合や嘔吐を認める場合は中止して、病院へ相談をお願いいたします。
鎮静をかけていても、緊張やストレスで疲れてしまう子もいますので
いつもの環境で暖かくして安静に見守ってあげましょう。
まとめ
鎮静処置は、動物の安全と快適さを確保するために不可欠な手段です。
使用にあたっては、事前の診察や検査結果をもとに
リスクとメリットを十分に検討したうえで判断しています。
当院では、患者さんごとの状態に応じて適切な鎮静薬を選択し、
安全で安心な検査・治療を心がけています。
鎮静に関するご質問やご不安がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。





