こんにちは、獣医師の山中です。
昨年から、当院でも「脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO:Tibial Plateau Leveling Osteotomy)」を実施できるようになりました。
私(山中)が診断から術後管理まで主治医として担当しました症例を紹介します。
術後8か月経過しましたが、手術を乗り越えたみさきちゃんは、大きな合併症もなく現在も元気に過ごしてくれています。
TPLOは、犬の前十字靭帯断裂(CrCL断裂)に対する治療法の中でも、特に活動性の高い中〜大型犬(体重15kg以上)に対して有効性が高いとされる術式です。これまで一般的に行われてきた「関節外法」とは考え方も治療成績も大きく異なります。
今回は、「前十字靭帯断裂とはどのような病気か」「どんな治療方法があるのか」「TPLOとはどんな手術か」「どんな犬に向いているのか」「合併症はどういったものがあるのか」などについて、少し詳しくご紹介します。


目次
前十字靭帯断裂とは
治療方法
TPLOとは
適応症例・治療成績
合併症・術後管理
まとめ
前十字靭帯断裂とは
❚ 発生機序
犬の膝関節(大腿骨と脛骨で構成される)には、前十字靭帯と後十字靭帯があります。
前十字靭帯は、脛骨が前方へずれるのを防ぎ、関節の安定性を保つ重要な靭帯です。
しかし犬では、外傷よりも「靭帯の変性(すり減り)」が原因で徐々に弱くなり、最終的に断裂に至るケースが多くみられます。
このため、突然の転倒ではなく「少しずつ後ろ足をかばって歩くようになる」といった経過をたどることもあります。
❚ 症状
代表的な症状は、
• 立ち上がるときに足を浮かせる
• 散歩中に片足を上げて歩く
• 階段やソファへのジャンプを嫌がる
などです。
完全断裂では全く足を着けられなくなることもあります。
❚ 検査・診断
診断には触診・X線検査・関節鏡検査などを行います。
触診では「前方引き出し徴候」や「脛骨圧迫試験」で膝の安定性を確認します。
X線では脛骨の傾斜角(TPA)や関節炎の程度を評価し、治療方針を決定します。


右側の患肢は、大腿骨が脛骨のオレンジのラインより後ろにずれていて、靭帯の損傷により関節内の緑のラインが腫れているのがわかります。
治療方法
❚ 内科療法(保存療法)
軽度の部分断裂や高齢犬では、痛み止めの内服や安静、体重管理、サプリメントなどで様子を見る場合もあります。
しかし、靭帯が自然に修復することはなく、長期的には関節炎や半月板損傷が進行してしまうため、根本治療にはなりません。
❚ 外科療法①:ラテラルスーチャー法(関節外縫合法)
膝関節の外側にナイロン糸のような人工靭帯を通して、切れた靭帯の代わりに安定化を図る方法です。
糸の力はだんだん緩みますが、糸によって一時的な安定を得ている間に、生体の反応(線維化)を起こし関節を固めます。
小型犬や体重の軽い犬では比較的良好な成績が得られます。
ただし、肥満の子や15~20kgを超える中・大型犬では糸が早期に伸びたり切れたりすることがあり、再発のリスクが高まります。

❚ 外科療法②:脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO:Tibial Plateau Leveling Osteotomy)
脛骨の一部を切ってプレートで固定する術式で、靭帯がなくても力学的に安定した膝関節を作る方法です。
靭帯の機能を再建させる・補うのではなく、「膝関節にかかる力の方向そのものを変える」点が特徴です。


❚ 関節外法とTPLOの違い

TPLOは関節外縫合法と比較して、術後の関節炎が軽度であることも大きなメリットです。
当院では、犬の体格や生活環境、性格などを踏まえて最適な治療法をご提案しています。
TPLOとは
TPLOは、前十字靭帯がなくなった状態でも膝関節を安定させるための「骨切り手術」です。
❚ 術前計画
手術前にX線で脛骨の傾斜角(TPA)を計測します。
多くの犬では25〜30°あり、これを約5°前後まで減らすように計画します。

❚ 関節内の処置
手術ではまず膝関節を開き、断裂した前十字靭帯を除去します。
また、損傷していることが多い「内側半月板」を評価し、必要に応じて部分切除します。

❚ 骨切り〜固定
脛骨の上部を円形に骨切りし、目的の角度になるように回転させます。
その後、専用のプレートとスクリューでしっかり固定します。
骨が癒合するまでの期間は、個体差はありますが6〜8週間程度です。

適応症例・治療成績
TPLOが特に適しているのは以下のような犬です。
• 体重15kg以上の中〜大型犬
• 活動性が高く、走る・跳ぶ動作が多い犬
• 関節外法で症状が改善しない犬
• 半月板損傷を伴う犬
国内外の報告では、TPLOの歩行回復率は90〜95%と高く、良好な成績が得られています。
当院で手術したしたみさきちゃんは、術後2週間で軽い歩行を再開し、1ヶ月でほぼ正常歩様に回復しました。


合併症・術後管理
❚ 合併症
主な合併症は次の通りで、発生率は10~34%程度です(通常の骨折治療よりも少ないといわれます)。
• 骨切り部の癒合遅延
• プレートやスクリューの緩み
• 感染
• 膝蓋靭帯断裂、靭帯炎
• 腓骨骨折
• 脛骨粗面骨折
また、術中の動脈(膝窩動脈・前脛骨動脈)損傷による出血も1~2%で発生します。
いずれも適切な術後管理で予防・早期対応が可能です。
❚ 術後管理

TPLOでは、多くの犬が手術後早い段階から足を着いて歩けるようになります。
しかし、骨を切ってプレートで固定しているため、骨がしっかり癒合するまでは安静が必要です。
術後約2週間は、ケージやサークルを活用しながら安静に過ごし、散歩は排泄のための短時間のみに制限します。
その後、傷口の状態を確認して抜糸を行い、問題がなければ短時間のリード散歩を開始します。
術後6〜8週間頃にレントゲン検査で骨の癒合を確認し、順調であれば徐々に運動量を増やしていきます。
多くの症例では、術後3か月頃までに日常生活へ復帰することが可能です。
下のレントゲン画像では、術直後から術後4か月までの骨癒合の様子がわかります。
術後3か月では、骨折線が消失し骨増生をしていることがわかります(黒矢印・橙矢印)。



良好な経過を得るためには、術後の運動管理に加えて、適正体重の維持や筋力管理も重要となります。
当院では定期的な経過観察を行いながら、それぞれの患者さんに合わせた術後管理をサポートしています。
まとめ
犬の前十字靭帯断裂は、放置すると関節炎が進行し、慢性的な痛みを引き起こします。
特に中〜大型犬では、TPLOによって安定した歩行機能の回復が期待できます。
ノア動物病院では、今後も経験を重ね、わんちゃんにとって一番いい治療法を選択できるようにを精進してまいります。
もしご家庭のわんちゃんが後ろ足をかばっていたり、前十字靭帯断裂と診断された場合は、まずはお電話にて一度ご相談ください。





