看護師の鈴木です。今回は「認知症」についてお話したいと思います。
認知症は高齢性認知機能不全または認知機能不全症候群(CDS)とも言います。
犬の認知症の発症率は加齢とともに高まり、14~15歳を過ぎると急に増加(14~60%)します。猫では、認知機能低下症の症状を示す割合として、11~14歳で28%、15歳以上で約50%であることが報告されています。
犬の認知症は、主に「加齢」に伴う脳の変化が原因で発症します。
加齢や生活の中で発症する酸化ストレス(生体内で害となる活性酸素が過剰に産生され、それを消去する抗酸化能とのバランスが崩れた状態)によって脳がダメージを受け、正常な神経細胞が減少した結果、認知機能が低下します。また、甲状腺ホルモンや性ホルモンなど体内のホルモンバランスの乱れも脳の機能に影響を与えるとされています。
認知症は、6つの徴候(DISHAA)が現れることが特徴的です。
① D(Disorientation):見当識障害
…慣れた場所が分からなくなる、親しい人を認識できない、物を避けずにぶつかる

② I(social Interaction):社会的交流の変化
…飼い主さんに対して甘える行動が減る、あいさつ行動が減る又は繰り返す、食事の要求を繰り返す
③ S(Sleep/wake cycle):睡眠サイクルの変化
…昼間よく寝て夜寝ない、1回の睡眠時間が短くすぐ起きてしまう、夜鳴き
④ H(Housesoiling、learning and memory):不適切な排泄、学習・記憶の低下
…トイレの場所を間違える、失禁する、以前できていたオスワリなどのコマンドに従うことができなくなる
⑤ A(Activity):活動性の変化
…刺激に対する反応が低下する、うろうろと歩き回る、円を描くように歩き続ける、攻撃性が増加し唸ったり噛んだりすることが増える

⑥ A(Anxiety):不安の増加
…飼い主さんが近くにいないと要求もないのに鳴く、これまで大丈夫だった状況や物に怖がる、後追いが増す
治療法としては
● 薬物療法
軽度であれば経過観察を行うこともありますが、生活に支障が出る場合は薬物療法を行います。抗不安薬や睡眠薬を処方したり、抗酸化物質や血流を改善する薬を使うことで症状を緩和させます。
内分泌疾患のある子は薬物代謝が健康な子たちと異なることがあるので注意が必要です。
例)ジアゼパム(抗不安薬)、アセプロマジン(鎮静薬)、トラゾドン(抗うつ剤)

● 補助療法
薬物療法に加えて、認知症の進行を抑えるサプリメントや認知症に配慮したフードを与えるなど補助的なケアを行うのもひとつの方法です。
例)フェルガード / アクティベート(脳の健康をサポート)、ジルケーン(ストレス緩和)、メラトニン(睡眠の質向上)、還元型コエンザイムQ10(抗酸化作用)


● 生活改善
自宅での生活環境の見直しもまた、症状改善に有効です。
栄養満点のご飯を与える、規則正しい生活をおくることで、昼夜逆転や夜鳴きが改善することもあります。また、足腰に負担のない寝床を用意したり、ペットケージで安全な場所を確保したりするなど、部屋づくりの工夫も体の負担を減らし、症状の進行を抑える手助けとなります。そして、適度な運動も血流の改善やストレス緩和、抗炎症作用など多くのメリットがあるのでおすすめです。
認知症は初期段階での発見が難しく、根治することができません。
そのため脳の老化をできるだけ緩やかにし、飼い主さんと動物の双方が、快適に暮らせるように日頃から動物たちの様子をよく観察し、環境を整えることが認知症の予防であり治療になります。
まずは愛犬の生活習慣を見直し、環境を整えることから始めてみましょう。
また、症状が認められなくても、シニア期に入ったら年に1~2回、認知機能の評価を行うことが大切です。定期的に評価を繰り返し、以前と比較してみることで小さな変化を見つけることができます。
認知症が進んでくるとこれまでの生活習慣や活動が崩れ、日常生活に支障が出てきてしまい飼い主さんが眠れなくなるなど負担が大きくなってしまうこともあります。当院でも上記で紹介したサプリメントやお薬などもございますので、気になることや不安がありましたらお早めにご相談ください。