獣医師の田村です。
猫の口腔内に腫瘍ができることがあります。
猫の口腔内にできる悪性腫瘍のうち60~70%は扁平上皮癌といわれています。
猫の口腔内扁平上皮癌は局所浸潤性が強く、口の痛みなどで食欲や活動性が落ちたりします。
一方で、リンパ節転移や遠隔転移はまれといわれており、局所治療がとても重要となります。
局所治療とは、主に外科手術による摘出が主体となります。
今回は、猫の下顎に発生した扁平上皮癌に対し、下顎骨を大きく切除した症例を紹介します。
11歳の避妊済み、雑種の猫ちゃんが下顎が腫れてきて、体重も落ちてきたとのことで来院されました。

触診やX線検査で左側の下顎の骨が腫れていました。
後日、腫れている部分の一部を採材したところ、扁平上皮癌と診断されました。
手術前の顎の状況です。

CT検査も実施し、腫瘍の浸潤具合を確認すると、左下顎骨の広範囲に及んでいることがわかりました。
完全摘出を期待するには、左側の下顎骨を中心に下顎の3/4くらい(赤丸で囲んだ範囲)を切除する必要があります。

飼い主様と何度も相談し、痛みの緩和と栄養摂取の改善を期待して、今回は手術を実施することとなりました。
数日後、手術を実施し、高齢ながら無事乗り切ってくれました。


下顎の広範囲切除した場合には、自力でフードを食べれなくなることが多く、胃瘻チューブなどによる給餌方法の変更が必要になることが多いです。
今回は術前から体重減少もあったため、手術時に胃瘻チューブを設置し、積極的な食事管理を実施してもらうこととしました。


手術後は、飼い主様の献身的な介護もあり、胃瘻チューブからの給餌により1日に必要な栄養が取れるようになりました。
少し前の症例になりますので、猫ちゃんはすでに亡くなられていますが、最期まで再発などはみられませんでした。
この場を借りて、改めてご冥福をお祈りいたします。
猫ちゃんの口腔内の扁平上皮癌は、腫瘍の位置(顎の先端か尾側か)などによっても、手術後の経過が変わってくるため、必ずしも手術で摘出することがすべての症例において正解ではないこともあります。
そのため、同様の腫瘍を疑う猫ちゃんが来院されたときには、年齢や全身状態、腫瘍の状況、飼い主様の意向などをしっかりと確認したうえで、できること、してあげたいこと、それを当院の獣医師や動物看護師と相談させてもらえればと思います。
GPCert in Small Animal Surgery (小動物外科総合臨床認定医)
田村 雄治





